中国新聞に代表・加藤りつこの、貴光さんの同級生との10年ぶりの再会が紹介されました。
同窓会は、国連職員が夢だった貴光さんが活動していた日本国際学生協会(ISA)神戸支部の当時の仲間たちが企画。2015年の前回は30人が集まり、同学年だった勝目直子さん(50)=名古屋市=が持ち寄ったワインが話題になった。
震災の3カ月前。20歳の誕生日が近づいていた勝目さんは、貴光さんから欲しいものを聞かれた。「大人っぽいものがいいな」。そう答えると、14年もののワインをプレゼントされた。ただ1人で飲むにはためらいもあり、そのまま部屋に置いていた。
そしてあの日。貴光さんは下宿先のマンションが倒壊し亡くなった。勝目さんはその後、結婚や転職で東京や千葉を転々とした。「時間がたっても、どうしていいか分からなくて」。タオルに包んで保管し続けていた。
34年ものになったワイン。同窓会で開封して飲むことになった。しんみりするはずがコルクがなかなか抜けない。みんなで恐る恐る口にする滑稽さも手伝って、会場に笑いが生まれた。加藤さんはうれしかった。「みんなの優しさが伝わってきて。貴光はつくづく仲間に恵まれた」
加藤さんは息子を亡くした悲しみを抱えながら、各地で体験を伝える講演活動を続けている。11年に東日本大震災が起きると現地を訪ね、被災者と交流を重ねた。
1年前の能登半島地震。石川県珠洲市にある勝目さんの実家が被災した。「心配しています」。加藤さんはすぐにメッセージを送った。勝目さんは「彼もそうしてくれたかも。やっぱり親子は似ていると感じた」と思い返す。
同窓会は18日、神戸市内のレストランである。加藤さんが「身内のような存在」という彼らに会うのは10年ぶりだ。それぞれが人生経験をさらに重ね、たたずまいにも味が出ているだろう。そこに貴光さんの姿はない。でも、みんなの心の中には変わらず存在している。共に過ごせる時間を、加藤さんはこれからも大切にしたいと思っている。